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ステンレスの耐食性 │ 錆にくいステンレス鋼の種類と不働態、粒界腐食について

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ステンレスの耐食性 │ 錆にくいステンレス鋼の種類と不働態、粒界腐食について
この記事では、ステンレス鋼はなぜ耐食性が良いのか、また不働態被膜や粒界腐食について分かりやすく説明いたします。

耐食性とは

耐食性とは、材料が酸化や化学反応などによって引き起こされる腐食に耐える性質のことをさします。耐食性が強い=腐食しにくく、材料破壊や強度低下に繋がりにくいため、金属材料を選定する際の重要視すべき一つの指標となっています。

 

 

ステンレス鋼はなぜ錆びにくい?

金属のなかでもステンレス鋼は”錆にくい”金属として知られていますがこれはステンレス鋼には、クロム(Cr)が他の金属よりも多く含まれているためです。

酸化しやすいクロム(Cr)が、ステンレスの表面に、不動態被膜と呼ばれる極めて薄い酸化皮膜(1nmほど)をつくり、これが緻密に地金と結びついて地金を保護しているので、この皮膜がこわれないような環境では、永く耐食性を保ち続けることができるのです。

不働態被膜


例えば、大気中では皮膜がこわれても、空気中の酸素によって自動的に再生されます。硝酸や濃硫酸のような酸化性の酸に強いのはこのためです。

大気中での不働態被膜


逆に還元性の環境では、皮膜の破壊や再生が阻止されるため、比較的簡単に腐食されますので、これを改善するためニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)等の元素を加えて皮膜の強化を図った鋼種もあります。

還元性の環境での不働態被膜


この他表面に異物が付着したり、異種金属と接触していたり、温度や濃度の勾配があるような場合に、局部的に腐食されることがありますが、特に表面のあらいものや汚れているような場合に起りやすいので、ステンレス鋼の表面はなるべくなめらかで清浄にしておくことが必要です。

 

 

ステンレス鋼の系統別耐食性

一般的に”錆びにくい”といわれるステンレスですが、常温での金属組織によってオーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト・フェライト(二相)系、析出硬化系の5種類に分類され、それぞれの系統毎に耐食性の度合いは異なります。

金属組織分類 耐食性
オーステナイト系ステンレス ○~◎
マルテンサイト系ステンレス
フェライト系ステンレス
オーステナイト・フェライト(二相)系
析出硬化系

 

 

オーステナイト系ステンレス鋼

オーステナイト系ステンレスは、優れた耐食性をもっています。還元性雰囲気においては、ステンレス鋼は比較的簡単に腐食されると上述しましたが、オーステナイト系ステンレスは、これを防ぐためにNiが添加してあり、還元性雰囲気のなかでも高い耐食性を示します。一方、400~800℃位の高温化で使用すると、結晶粒界にクロムが析出し耐食性が著しく低下します。

この現象は「鋭敏化」と呼ばれ、粒界腐食の原因にもなります。

 

当社取り扱い鋼種

SUS304・301  TOKKIN 305M  SUS316L・316

 

 

マルテンサイト系ステンレス鋼

マルテンサイト系ステンレス鋼の生材の耐食性はステンレス鋼の中で最も劣り、塩水環境や酸環境では腐食する可能性が高いため、主に大気中での使用に適しています。また、炭素が含まれているため焼入れが可能であり、完全焼入れ状態で表面を研磨、またはその他の方法で平滑にした場合には耐食性はかなり改善します。

 

当社取り扱い鋼種

SUS430  FS-1  TDS-1

 

 

オーステナイト・フェライト(二相)系ステンレス鋼

二相系ステンレス鋼の耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼よりも優れています。また、クロムとモリブデンの含有率が高いため、塩化物の環境下において発生しやすい孔食、すき間腐食、応力腐食割れに強い耐性をもっています。

 

 

析出硬化系ステンレス鋼

析出硬化系ステンレス鋼の耐食性は、オーステナイト系ステンレス鋼よりも劣っていますが、フェライト系ステンレス鋼よりは優れています。大気中では十分な耐食性を示すが塩水環境下では、腐食が発生する可能性があります。

 

当社取り扱い鋼種

SUS631・632J1・TOKKIN 350

 

 

孔食

一般的な腐食形態には全面腐食、局部腐食等の分類があり、局部腐食はさらに粒界腐食、孔食、応力腐食割れ等の形態に分かれます。

ステンレスなどの不動態被膜を作る鋼種では、塩化物イオン等のハロゲンイオンが存在する環境において、イオンの働きで不動態被膜が局所的に破壊され、そこから赤さび等の腐食が進行することがあります。不動態が破壊された部分には小さな孔が空くことから、孔食と呼ばれます。

 

孔食指数(PRE)

鋼種ごとの耐孔食性の優劣については、元素含有量で示す孔食指数(PRE)が一つの目安となり、この値が高いほど耐孔食性に優れる傾向があります。 孔食指数(PRE)は以下の式で表すことができ、各種類の代表鋼種の数値は下表の通りとなります。

孔食指数(PRE)の計算式

PRE=Cr(%)+3.3{Mo(%)+0.5W(%)}+16N(%)-Mn(%)
※計算式は文献によって異なる場合があります。

 

横にスクロールしてご覧いただけます。

ステンレス鋼の分類 代表鋼種 Cr Mo W N Mn PRE
オーステナイト系 SUS304 19 0 0 0 1 18.0
SUS316L 17 2.5 0 0 1 24.3
マルテンサイト系 SUS420J2 13 0 0 0 0.5 12.5
フェライト系 SUS430 13 0 0 0 0.5 16.5
オーステナイト・フェライト(二相)系 SUS329J4L 25 3 0 0.2 0.5 37.6
析出硬化系 SUS631 17 0 0 0 0.5 16.5

※使用成分値は規格の中心付近の値を採用しています。

 

なお、孔食指数(PRE)は耐食性を推測する目安にはなりますが、使用環境や不働態被膜の状態によっても変わるためPRE値だけで判断しないようにしてください。

 

 

不動態(Passivity)

一般に環境の酸化性が強くなると金属の腐食は起り易くなりますが、ある種の金属は酸化性がある程度以上強くなると、かえって腐食が止まってしまうことがあります。このような状態をその金属が“不動態化”したといい、金属と環境の組み合せで生じます。また金属も不動態になりやすいものがあり、Fe、Ni、Cr、Moやその合金等(例えばステンレス鋼)がこれに当ります。

不動態化を促進する方法として次のことが考えられます。

  1. 硝酸その他強力な酸化剤を含む溶液中に浸漬する方法
  2. 酸化剤を含む溶液中で材料を陽極酸化する方法
  3. 酸素または清浄な空気中で低温加熱する方法

この内実際に主として使われているのは、(1)の方法で(a)50%沸騰HNO3、(b)20~40%60℃HNO3(c)4%HF+4%CrO 360℃に30~60分浸漬する方法等があります。

また不動態化処理の前に表面を活性化しておくと効果が増進するといわれていますが、何れにしましても不動態被膜の厚さは数10Å~200Åのごく薄い被膜なので、環境によっては永続的な効果に問題を生ずる場合があります。

 

ちょこっとメモ

”ふどうたい”は、不動態と不働態の両方の漢字が使われる場合があります。 また、”ひまく”も同様に、皮膜と被膜の両方が使用されることがありますが、これらはどちらを使っても間違いではないようです。

例:不動態被膜、不働態皮膜、不働態皮膜、不働態被膜

ちなみに、筆者が確認した文献での使用数は、不動態被膜…1件、不働態皮膜…3件、不働態皮膜…2件、不働態被膜…0件でした。参考までに。

 

 

粒界腐食(Intergranular Attack)

オーステナイト系ステンレス鋼を400~800℃位に加熱したり、加熱後に徐冷したりすると、鋼中のCrがCと結合し炭化物が結晶粒界に析出します。これにより結晶粒界近傍はCrが欠乏した状態となり、この現象を鋭敏化(Sensitization)といいます。鋭敏化は特に溶接時の熱影響部に発生し、Crの欠乏した粒界周辺は耐食性の低下により粒界に沿って腐食が進行していくため粒界腐食と呼ばれます。

これを防ぐためには以下の方法が行われています。

    1. 炭素量を特に低くした低炭素鋼を使用(SUS304L316L、316J1L) ※L…Low Carbon
    2. チタンやニオブ等の造炭化物元素を添加する(SUS321、347)
    3. 炭化物が析出したものを1000~1150℃に再加熱し急冷する(固溶化熱処理)

粒界腐食

 

 

まとめ

以上ステンレスの耐食性について解説いたしました。

当社ではステンレス鋼の表面耐食性を改善させる付加技術を開発いたしました。鋼種や仕上げを変えることなく、表面耐食性を向上させることができますので、図面の変更が不要です。

詳細はこちらのページの「耐食性改善ステンレス鋼」のリーフレットをダウンロードください。

 

ステンレス鋼の中でも、腐食の要因によってお勧めする鋼種は変わります。

また、使用環境やその他の要求特性によっては、ステンレス鋼以外をご提案する場合もございます。

錆や腐食でお困りでしたら、まずはお問い合わせフォームよりご相談ください。

 

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