
nanoSUS®特集(2)
~結晶粒微細化と疲労特性の関係~
nanoSUS®は、当社の独自技術により平均結晶粒径を1μm程度にまで微細化した材料です。
この記事では、超微細結晶粒ステンレス鋼 nanoSUS® をご紹介しています。
超微細結晶粒ステンレス鋼nanoSUSは、強度や疲労特性、加工性など、様々な材料特性を通常の金属材料よりも向上させた高付加価値な材料です。
なぜ、結晶粒を微細化することで様々な特性が向上するのでしょうか。
3回に分けて、nanoSUS®特集『結晶粒微細化が金属の特性にもたらす効果』について解説しています。
第3回目の本記事では、「結晶粒微細化と加工性の関係」についてを解説。
本記事がnanoSUS特集の最終回となりますが、ぜひ最後までお読みください。
第1回、第2回は以下のリンクよりご覧ください。
第1回|~結晶粒微細化と強度・ばね性の関係~
第2回|~結晶粒微細化と疲労特性の関係~
まずはじめに、本記事のテーマである「加工性」について認識を共有させていただきます。
一般的に「加工性」と言うと、絞りや曲げなど物理的な変形に対し、加工のしやすさを指す場合が多いですが、本記事では少し異なる視点から「加工性」を定義いたします。
本記事での「加工性」とは、金属材料を加工した後の表面や断面がどれだけ美しく仕上がるか、つまり最終製品での外観の美しさに焦点を当て、お客様の製品品質に直結する要素として「加工性」をご説明いたします。
前述の通り、本記事における「加工性」とは”外観の美しさ”と定義させていただきましたが、nanoSUSは通常のステンレス鋼と比べて、加工後も非常に美しい外観を維持することができるのです。
例として、曲げ加工後の表面状態やハーフエッチング後の加工形状においての比較結果をご紹介いたします。
この図は、通常のステンレス鋼とnanoSUSの180°密着曲げ加工後の曲げ部表面の拡大写真です。
通常のステンレス鋼は凹凸が際立って見えるのに対し、nanoSUSは凹凸が小さく、滑らかに見えます。実際にこの部分を手で触ると、通常ステンレス鋼の方はザラザラ、nanoSUSはサラサラした感触なので、nanoSUSの方が外観も触感も美麗性がいいことが分かります。
なお、表面のざらつきは美麗性だけでなく、金属材料同士が擦れる際の摩擦抵抗にも影響しますので、nanoSUSにすることで摩擦による発熱やスレ疵などの抑制にもつながります。
この図は、通常のステンレス鋼とnanoSUSのハーフエッチング後の加工部の形状を観察した写真です。
※ハーフエッチングとは、腐食液を利用して表面の一部だけを削るエッチング加工の一種です。
通常のステンレス鋼では穴の輪郭が明瞭ではなく、内壁にも凹凸が出ているのに対し、nanoSUSでは輪郭が明瞭なうえに内壁も滑らかで、美麗性がいいことが分かります。
また、ハーフエッチングのみならず孔を貫通させる通常のエッチングにおいても同様のメリットがあります。
凹凸が少ないため孔の精度が上がり、液体を噴射させるインジェクターなどの用途においては、孔径を小さくできたり、孔内壁の凹凸による流体の散乱を防ぐことができ、噴射液体の指向性を向上させることが可能になります。
このように、結晶粒を微細化したnanoSUSは、外観の美麗性を維持できることが分かりましたが、なぜそうなるのでしょうか?
次からは、nanoSUSが美麗性を維持できるメカニズムについて解説してまいります。
まず、180°密着曲げ加工についてのメカニズムをご説明いたします。
金属材料は応力により形状を変えることができ、それは塑性変形=転位の移動による原子配列のズレによって起こるということを第1回目の記事|~結晶粒の微細化と強度・ばね性の関係~で解説いたしました。
実は曲げ部表面に見られる凹凸は、この原子配列のズレが目視で確認できている状態なのです。
金属材料の結晶は、外力の方向によって構造ごとに原子配列がズレやすい方向が決まっているのですが、それらを考慮するととても複雑になってしまうため、ここでは金属材料の結晶を六方体を用いて簡易的に説明させていただきます。
金属材料は複数の結晶が隣り合って形成されており、それぞれの結晶は向いている方向(結晶方位)が異なります。
それぞれ、赤が正面、青が左側、緑が右側を向いていると仮定し、各々の正面に対して右側に原子配列のズレが起こりやすいとすると、塑性変形が起こった場合、次のように変形します。
塑性変形が起こる前は平坦であったのに対して、塑性変形後はそれぞれの結晶が変形する方向にズレるため、図のように凹凸が出ます。 実は、この結晶のズレが目視で確認できるようになるのです。
この結晶のズレ自体は、結晶粒が大きくても小さくても起こる現象ですが、結晶粒が小さければ小さいほど、個々の結晶のズレは小さくなり目視ではわかり難くなるため、通常粒と比較し美麗性が向上するのです。
続いて、結晶粒の微細化と断面美麗性の関係についてご説明します。
結晶粒が微細だと、なぜ断面の美麗性が向上するのでしょうか?
エッチングにおいては、結晶粒の腐食のされやすさの影響によります。
腐食についてはこちらでも紹介しておりますので、併せてお読みください。
関連記事|ステンレス鋼の腐食形態とその発生防止方法を教えてください。
ちょこっとメモ
エッチングとは、表面を腐食させて任意の形状にする加工方法で、大きく次の2つに分けられます。
どちらの方法を選ぶかは、それぞれのメリット/デメリットを考慮する必要がありますが、どちらの方法でも基本的には除去したくない部分をマスク(レジスト)し、それ以外の部分を除去することになります。
なお、今回のハーフエッチングはウェットエッチングにより加工しています。
基本的にエッチングでは、マスクしていない部分が全面均一に削られていくのですが、微視的にみると、実は結晶粒と結晶粒界では腐食速度が異なるのです。
右図はエッチングにより結晶粒界が優先的に腐食された画像です。
結晶粒界は原子の偏析などが起こりやすく腐食されやすい傾向にあるため、粒界腐食がより起こりやすくなります。
さらに、ステンレス鋼の結晶粒は不動態皮膜で保護されているため、腐食されにくく、結晶粒と結晶粒界の腐食速度により大きな差がでます。
結晶粒界から優先的に腐食される模式図を下図に示します。
図のように結晶粒界から優先的に腐食されるため、結晶粒が小さいnanoSUSはエッチング後の凹凸が小さくなります。
また、穴の外周部のデコボコにおいても同じことが言えます。
下図は、実際の結晶粒写真を用い、下半分をマスクし上半分をエッチングにより除去した場合にどのくらいの差が発生するかを比較したものとなります。
粒界に沿って除去されるため、通常粒とnanoSUSでは凹凸差が明確なのがお分かりになると思います。
実は、この粒界に沿って除去される現象は、プレス加工や切削加工でも同様で、下の写真のようにプレス端面の欠けや切削バリの抑制にも有効であることが確認されています。
さて、本記事では結晶粒の微細化と加工性の関係についてご説明いたしました。
nanoSUS®特集はこの記事で終わりとなりますが、この記事からnanoSUS®にご興味を持ってくださった方は、是非nanoSUS®の紹介ページもご覧いただければと思います。
関連製品|超微細結晶粒ステンレス鋼 nanoSUS®(ナノサス)
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