
金属の切削加工とは?│種類、特徴、メカニズム、被削性について
高温環境で使われる材料を耐熱材料と言いますが、本記事では、耐熱材料の中でも当社で扱うことの多い耐熱鋼と耐熱合金について解説しています。
耐熱鋼・耐熱合金とは?概要、成分、耐熱温度について、復習を兼ねてぜひご覧ください
本記事にも記載している "耐熱合金" の当社ラインナップを掲載した資料がございます。
耐熱材料とは、高温環境下でも化学的・物理的性質が変化しにくい材料を指します。
本記事で取り上げている耐熱鋼や耐熱合金などの金属以外にも、セラミックス、ガラス、樹脂など、それぞれの分野で耐熱性に優れる材料があり、用途や要求特性によって材料を選択する必要があります。
この記事では、当社で扱うことの多い耐熱鋼と耐熱合金について解説いたします。
ちょこっとメモ|金属の腐食への温度の影響
金属の腐食は、材料の特性、使用状況、周囲の環境など、さまざまな要因によって影響を受けます。
その中でも高温環境下ですすむ腐食の総称を「高温腐食」といい、その場合の腐食要因は、ガスによる「乾食」と燃焼スラグなどが表面に付着して生じる「溶融塩腐食」に大別されます。
一般的に金属は、高温になると腐食スピードが上がり、さらに強度も低下しますので、本来の力が発揮されません。長時間安定して性能を求めるのであれば、使用環境に合わせた適切な材料選定が大事ですね。
耐熱鋼と耐熱合金はどのような材料でしょうか?JIS規格では以下のように定義されています。
耐熱鋼・・・高温における各種環境で耐酸化性、耐高温腐食性及び/又は高温強度を保持する合金鋼。
耐熱合金・・・耐熱鋼の中でも、合金元素の含有率の合計が約50%を超える場合は、一般に超合金、耐熱合金又は耐熱超合金と呼ばれる。
耐熱合金の中でも、Feを主成分(一般的に50%以上)としたものを「耐熱鋼」、合金成分(NiやCr、Coなど)を50%以上含有し耐熱鋼よりもさらに優れた耐熱性や高温強度を持たせたものが「耐熱合金」ということになります。
近年の技術進歩により、各装置の作動温度域も高くなり、これらの耐熱合金の需要が高まってきており、当社へのお問い合わせも増えています。
耐熱鋼・耐熱合金関連のJIS規格には以下のようなものがあり、それぞれの規格で規定されている材質を下表にまとめております。
JIS G4311:耐熱鋼棒及び線材
JIS G4312:耐熱鋼板及び鋼帯
※耐熱鋼には、耐熱鋼のみの規格である鋼種SUH(Steel Use Heat Resisting)と耐熱用途としてよく使用されるステンレス鋼SUS(Steel Use Stainless)が規定されています。
主要な金属組織によって、フェライト系、マルテンサイト系、析出硬化系、オーステナイト系に分類されます。
JIS G4901:耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-棒
JIS G4902:耐食耐熱超合金,ニッケル及びニッケル合金-板及び帯
※耐熱合金には、主にFe基、Ni基、Co基がありますが、これらの規格ではNi基系のみが規定されています。
JIS G5122:耐熱鋼及び耐熱合金鋳造品
※鋳造品は本記事では触れておりません。
オーステナイト系の表へ フェライト系・マルテンサイト系・析出硬化系の表へ 耐食耐熱超合金の表へ
鋼種名 | 帯・板 G4312 |
棒・線 G4311 |
|
---|---|---|---|
オーステナイト系 | SUH31 | ○ | |
SUH35 | ○ | ||
SUH36 | ○ | ||
SUH37 | ○ | ||
SUH38 | ○ | ||
SUH309 | ○ | ○ | |
SUH310 | ○ | ○ | |
SUH330 | ○ | ○ | |
SUH660 | ○ | ○ | |
SUH661 | ○ | ○ | |
SUS302B-HR | ○ | ||
SUS304-HR | ○ | ○ | |
SUS309S-HR | ○ | ○ | |
SUS310S-HR | ○ | ○ | |
SUS316-HR | ○ | ○ | |
SUS316Ti-HR | ○ | ○ | |
SUS317-HR | ○ | ○ | |
SUS321-HR | ○ | ○ | |
SUS347-HR | ○ | ○ | |
SUSXM15J1-HR | ○ | ○ |
鋼種名 | 帯・板 G4312 |
棒・線 G4311 |
|
---|---|---|---|
フェライト系 | SUH21 | ○ | |
SUH409 | ○ | ||
SUH409L | ○ | ||
SUH446 | ○ | ○ | |
SUS405-HR | ○ | ○ | |
SUS410L-HR | ○ | ○ | |
SUS430-HR | ○ | ○ | |
SUS430J1L-HR | ○ | ||
SUS436J1L-HR | ○ | ||
マルテンサイト系 | SUH1 | ○ | |
SUH3 | ○ | ||
SUH4 | ○ | ||
SUH11 | ○ | ||
SUH600 | ○ | ||
SUH616 | ○ | ||
SUS403-HR | ○ | ○ | |
SUS410-HR | ○ | ○ | |
SUS410J1-HR | ○ | ||
SUS431-HR | ○ | ||
析出硬化系 | SUS630-HR | ○ | ○ |
SUS631-HR | ○ | ○ |
鋼種名 | 帯・板 G4902 |
棒・線 G4901 |
|
---|---|---|---|
耐食耐熱超合金(NCF) | NCF600 | ○ | ○ |
NCF601 | ○ | ○ | |
NCF625 | ○ | ○ | |
NCF690 | ○ | ○ | |
NCF718 | ○ | ○ | |
NCF750 | ○ | ○ | |
NCF751 | ○ | ○ | |
NCF80A | ○ | ○ | |
NCF800 | ○ | ○ | |
NCF800H | ○ | ○ | |
NCF825 | ○ | ○ | |
NCF020 | ○ | ○ | |
NCF354 | ○ | ○ |
"耐熱"=熱に耐えられる材料となりますが、熱に耐えられるとは具体的にはどのようなことなのでしょうか?
次に挙げるのは、耐熱鋼や耐熱合金に求められる主な特性となります。
含有成分や金属組織の違いにより、それぞれの材料の特性にも差が出ますし、すべてを高いレベルで満足させようとするとコストにも反映してしまいますので、用途に応じて重要視する特性を明確にし材料を選定する必要があります。 次に当社への問い合わせの多いNi基やCo基の耐熱合金を解説します。
耐熱合金の中でも、航空機のエンジン、自動車の排気システム、ガスタービン、金型等のような、過酷な条件下でも安定した性能が求められる用途に使われることが多いNi基やCo基の耐熱合金について解説します。
下表に当社で扱う主なNi基、Co基の耐熱合金の化学成分を記載いたしました。
高い耐熱性をもつニッケル(Ni)やコバルト(Co)を主成分とし、それぞれの必要特性にあわせて添加物を調整しています。
横にスクロールしてご覧いただけます。
分類 | 合金名 | 主な化学成分 ※2 | 通称 ※3 |
---|---|---|---|
Ni基耐熱合金 | Alloy 282 | 57Ni-20Cr-10Co-8.5Mo-2.1Ti-1.5Al-0.005B | ヘインズ 282 |
Alloy 625 | 62Ni-21.5Cr-9Mo-3.7N | インコネル 625 | |
Alloy 718 | 52.5Ni-19Cr-3Mo-5.1Nb-0.9Ti-0.5Al-18Fe | インコネル 718 | |
Alloy X750 | 72Ni-15.5Cr-0.95(Nb+Ta)-2.5Ti-0.7Al-7Fe | インコネル X750 | |
Co基耐熱合金 | L605 | 52Co-20Cr-15W-10Ni | ヘインズ 25 |
※2 Ni:ニッケル、Cr:クロム、Mo:モリブデン、Ti:チタン、Al:アルミニウム、B:ホウ素、N:窒素、Nb:ニオブ、Fe:鉄、Ta:タンタル、W:タングステン
※3 インコネルやヘインズで始まる材料名は、とても広く知られているため一般名称のように扱われることがありますが、インコネル(正式には INCONEL)はSpecial Metals Corporation社、ヘインズ(正式には HAYNES)はHaynes International, Inc. 社 の登録商標となります。
そのため、各社が製造する製品以外では、この名称は使えませんのでご注意ください。
各合金、NiやCoをベースに、Cr、Mo、W等の元素が添加・増加されていますが、それぞれの添加元素が特性に与える影響をご紹介します。
ちょこっとメモ
高温環境の中、金属に一定の荷重をかけると時間の経過とともにひずみが大きくなり、時には破壊に至ります。この現象をクリープ現象といい、そのメカニズムを以下の記事にて解説しています。
関連記事|金属のクリープ現象とは?そのメカニズムやクリープ試験について
上表の合金も含め、当社では多数の耐熱合金を取り扱っています。
以下の資料には、耐熱合金だけでなく、耐食合金や高張力合金など、特徴ある材料情報がまとめてありますので、ご興味のある方はぜひダウンロードください。
関連資料|テクニカルガイド ダウンロードページはこちら(耐食合金・耐熱合金・高張力合金は資料P33-34参照)
耐熱合金は、熱伝導率が低いため切削加工性が悪かったり、加工硬化による高い引張強度により、加工には高い技術力が必要になります。
これまでの記事をお読みいただき、耐熱合金の耐熱温度はいかほどなのかと疑問におもわれた方もいると思います。
筆者が調べた中では、”耐熱”や”高温”とは記載があるものの、文献ごとに若干ずれもあり、耐熱合金を定義する明確な温度基準はなさそうです。
なお、AMS規格内では、合金毎にどのくらいの温度域で使用される材料かの概要が記載されており、当社主要製品である Co基耐熱合金「L605」、Ni基耐熱合金「ALLOY625」「Alloyx750」「Alloy282」「Alloy718」を確認したところ、温度だけで見れば600度以上かつ1000℃付近といった印象です。
ちょこっとメモ
以下はL605の規格「AMS 5537」から抜粋した一文となりますが、AMS規格にはこのようにどのくらいの温度域でどのような特性を持つ材料かが記載されています。
1.2 Application: These products have been used typically for parts requiring high strength up to 1500℉ (816 ℃)and oxidation resistance up to 2000 ℉ (1093 ℃), but usage is not limited to such applications.
下図に簡易的な耐熱温度図(使用温度帯)を掲載いたしました。
実際に使用される際は、高温強度、耐酸化性、熱疲労など、重視する特性によって選定する材質が変わってまいりますので、この図は参考程度にとどめていただければと思います。
以上、耐熱合金の概要、成分、耐熱温度についてまとめてみました。
少しでもお役に立てましたら幸いです。
また、どの合金が適しているのか選定に悩まれている方はぜひお気軽にTOKKINにご相談ください。
当社では耐熱合金に限らず、耐食合金、高張力合金と呼ばれる、ニッケル合金・コバルト合金を多数扱っています。
下のリンク先では合金ごとの特徴を一覧形式で記載してあり、気になる合金があれば合金名をクリックいただくごとで合金ごとの特性詳細(対応可能形状、製造範囲、物理的性質、機械的性質等)をご覧いただけます。
合金概要から詳細を見ていきたい方は以下リンクよりご確認いただくのがおすすめです。
ステンレス鋼を含めた耐熱性の高い材料へのリンクが一覧でまとめております。Ni、Co合金限らず材料を見ていきたい方は、ぜひこちらのリンクをご活用ください。
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