technicalcolumn

金属の熱処理とは? その目的、種類、熱処理方法、特長について

  1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. 金属の熱処理とは? その目的、種類、熱処理方法、特長について
公開日時 : 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
金属の熱処理とは? その目的、種類、熱処理方法、特長について
この記事では、金属の熱処理について解説。一般熱処理(焼入れ、焼戻し、焼ならし等)や特殊熱処理(固溶化熱処理、サブゼロ処理、析出硬化処理)について分かりやすく説明いたします。

目次【開く】

  1. 熱処理とは
  2. 熱処理の分類
  3. 一般熱処理
    1. 焼入れ(Hardening, Quenching)
      1. 普通焼入れ
      2. 引上げ焼入れ[時間焼入れ]
      3. オーステンパー
      4. マルテンパー
    2. 焼入れができる鋼種
      1. 炭素鋼
      2. ステンレス鋼
    3. 焼戻し(Tempering)
      1. 高温焼戻し
      2. 低温焼戻し
    4. 焼ならし(Normalizing)
      1. 普通焼ならし
      2. 等温焼ならし
      3. 二段焼ならし
      4. 二重焼ならし[二回焼ならし]
    5. 焼なまし(Annealing)
      1. 完全焼なまし
      2. 等温焼なまし[恒温焼なまし]
      3. 球状化焼なまし
  4. 特殊熱処理
    1. 固溶化熱処理(Solution treatment)
    2. サブゼロ処理(Sub-zero treatment)
    3. 析出硬化処理[時効処理](Precipitation hardening treatment)

 

熱処理とは

熱処理とは、金属に加熱と冷却を加え強さ、硬さ、粘さ、耐衝撃性、耐摩耗性、耐食性、被肖性、冷間加工性等といった材料の性質を変える処理のことをいいます。私たちが普段使用している携帯電話やPC、自動車などには多くの金属材料が使われていますが、その多くが熱処理工程を経て使用されており、鉄鋼製品の強度や硬度、耐摩耗性向上の為には欠かせない処理となっています。

 

 

熱処理の分類

目的や用途によって熱処理の方法は様々ありますが、大まかに分類すると以下のように分けることができます。

熱処理の分類

今回は上記の図より、全体熱処理の「一般熱処理」と「特殊熱処理」についてそれぞれの特長をみていきます。

 

 

一般熱処理

一般熱処理に該当する代表的なものとしては、焼入れ、焼戻し、焼なまし、焼ならしがあげられ、以下のように分類することができます。

一般熱処理の分類

 

 

焼入れ(Hardening, Quenching)

概要

鋼を変態点(組織変化が起こる温度)以上の温度まで加熱し、一定時間放置した後、水あるいは油によって急冷すること。焼入れを行った鋼は2-3倍硬く、強くなる一方でもろく、割れやすい状態のため、靭性を加えることができる「焼戻し」と通常はセットで行われます。

 

目的

鋼材を硬くすることで強度、硬度、耐疲労性、耐食性の向上をさせたり、ひび割れによる破損などを防ぐことが目的です。

 

方法

鋼をある一定温度まで加熱することでオーステナイトと呼ばれる組織に変化させ、その後水、または油によって急冷することでマルテンサイトという状態に変化させます。マルテンサイト化した組織は非常に硬いため、この性質を利用して鋼材を硬くすることができます。

焼入れ

また、焼入れの方法は主に以下の4種類に分けられます。

 

普通焼入れ

焼入れ温度から水または油によって急冷するもっとも一般的な方法です。

 

引上げ焼入れ[時間焼入れ]

時間焼入れとも云いますが、冷却中に水や油から材料を引上げゆっくり冷やす方法です。変形や、焼き割れなどを回避するために行われます。

 

オーステンパー

金属を変態点以上の適当な温度に加熱したのち、通常300~500℃の熱浴(鉛浴または塩浴)に焼入し、その温度に一定時間保持してから室温まで適当に冷却する熱処理法です。鋼に強さと粘さを与え、あるいは歪の発生および焼割れを防止するために行われ、硬度は普通Hv350~500位です。

 

マルテンパー

普通の焼入と同じく高温に加熱後、通常100~200℃の熱浴(油浴)に焼入し一定時間保持してから空冷する熱処理法で、普通の焼入に比べ、歪の発生と焼割れが少なく、衝撃値の高いものが得られます。

 

 

焼入れができる鋼種

焼入れによる硬さの上昇は、鋼材中に含まれるC(炭素)の量が大きく影響します。そのため、焼入れをして使用する鋼種はある程度のC含有量が必要となります。TOKKINラインナップで焼入れをして使われることが多い鋼種には以下のようなものがあります。

 

炭素鋼

TE-2:剃刀などのより高い硬さが必要な用途

M1, M2:メリヤス針などの耐摩耗性、耐久性が必要な用途

SK95(SK4), SK85(SK5):市場性が高く、汎用的な用途向け

 

ステンレス鋼

SUS420J2, RB-S:耐食性が必要な用途、直尺や刃物などにも使われる。

 

 

焼戻し(Temperin)

概要

焼入れを行った材料に、再度熱を加え、粘りと靭性を加える処理のこと。

 

目的

焼入れを行った材料は脆く、割れやすい状態のため、焼戻しを行うことで靭性を材料に付与することが目的です。

 

方法

焼戻し方法は、主に以下の2種類に分けられます。

 

高温焼戻し

変態点以下の高温(450‐650℃)の範囲で加熱し、一時間程度保持した後に空冷する処理のこと。最も多く用いられている処理で、強度と靭性を得ることができるためシャフトやボルトなどの部品をつくる際に用いらます。

 

低温焼戻し

約100‐200℃の範囲で加熱し、一時間程度保持した後に空冷する処理のこと。この処理により、焼入れで生じた内部応力が除去でき、経年劣化防止や耐摩耗性向上といった効果を得ることができます。

 

 

焼戻焼ならし(Normalizing)

概要

金属を一定の温度まで加熱後、空冷し組織を均一化、微細化する処理のこと。

 

目的

圧延などによって加工された金属は、組織が不均一となっていたり、内部に残量応力が存在しておりこれらは金属の機械的性質に悪影響を及ぼします。そのため、焼ならしの処理を行うことで、組織の均一化と残留応力の除去を行い、機械的性質の向上を行うことが目的です。

 

方法

焼ならしの方法は、主に以下の4種類に分けられます。

 

普通焼ならし

変態点より30-60℃ほど高い温度で加熱し、その後空冷する通常の焼ならし処理です。

 

等温焼ならし

約550℃の等温炉に挿入し、一定時間保持したあと等温炉から取り出して常温まで空冷される方法です。 この方法は、長時間を要するため現在はあまり用いられていません。

 

二段焼ならし

熱を加えた鋼を火色消失点まで空中放冷し、さらに炉冷、灰中冷却などで徐冷を行う方法。 内側と外側で温度の差が出る大きい材料に対して一般的に用いられる方法です。

 

 

焼なまし(Annealing)

概要

鋼を軟らかくするために熱を加え、一定時間保持した後徐冷する処理のこと。

 

目的

鋼を軟らかくすることで、プレスや鋳造などの加工をしやすくすることが目的です。また、組織の均質化や内部応力の低減のためなどにも行われます。

 

方法

焼なましの方法には、主に以下の3種類があります。

 

完全焼なまし

最も一般的な焼なましの方法であり、材料を変態点+50℃以上の温度に加熱した後、一定時間保持し徐々に冷却させる方法です。加工工程で発生した残留応力などのひずみを取除き組織を軟化させるために行われます。

 

等温焼なまし[恒温焼ならし]

約600℃の等温炉に挿入し、等温変態させたあと炉から取り出して空冷する方法です。サイクルアニーニングとも呼ばれ、切削性をよくするために行われます。

 

球状化焼なまし

変態点Ar1直下の温度に長時間加熱、または変態点Ac1直上の温度まで加熱後、Ar1直下まで冷却を数回繰り返す方法などにより炭化物を安定な球状の状態へと変化させる処理です。この処理により塑性加工性、被削性、靭性を向上させることができます。

 

 

特殊熱処理

特殊熱処理は、一般熱処理が行われた材料の機械的特性などをさらに向上させるために行われます。特殊熱処理に該当する代表的なものとしては、固溶化熱処理、サブゼロ処理、析出硬化処理があげられます。

 

固溶化熱処理(Solution treatment)

主にオーステナイト系ステンレスに用いられ、材料の合金元素が固溶する温度まで加熱した後、析出物を出さないように急冷する処理です。加工や溶接などで生じた内部応力を除去し、耐食性を向上させるために行われます。

 

サブゼロ処理(Sub-zero treatment)

0℃以下の温度に冷却する操作のことで深冷処理ともいいます。主として焼入鋼中の残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させ、例えば工具鋼では硬さの増加と性能向上に、またゲージや軸受などの精密機械部品では組織が安定化して寸法形状の経年変化を防止に効果があります。ステンレス鋼ではSUS631のR処理や高炭素クロムステンレス鋼の焼入残留オーステナイトのマルテン化処理に使われています。

 

析出硬化処理[時効処理](Precipitation hardening treatment)

鋼材中に添加された元素(Al, Nb, Ti, Moなど)が熱処理により化合物を析出することで機械的特性が向上します。TOKKINラインナップで析出硬化(時効処理)できる鋼種には、以下のようなものがあります。

析出硬化型ステンレス鋼: SUS631, SUS632J1, TOKKIN 350

マルエージング鋼: MAS-1

ニッケル合金: INCONEL 718, X750など

 

 

まとめ

以上熱処理について解説いたしました。

各鋼種の熱処理方法や温度などが掲載されたテクニカルガイドは、以下よりダウンロード頂けます。ぜひ、ご活用ください。

テクニカルガイド

技術資料ダウンロード

材料スペックや材料データが満載のテクニカルガイド(全60ページ超)を無料でダウンロードいただけます。

まずはお気軽にお問い合わせください。

金属材料に関して課題をお持ちの方は、まずは特殊金属エクセルにご相談ください。お客様の製品になるまでを考慮し、課題解決に向けたよりよい材料のご提案をいたします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

金属材料に関するご相談など
お気軽にお問い合わせください

お電話でも
お問い合わせいただけます

03-5391-6151

受付時間 9 : 00~17 : 30 (土日・祝日除く)