MAS-1|マルエージング鋼

マルエージング鋼

マルエージング鋼

MAS-1|マルエージング鋼

概要・特徴

マルエージング鋼は米国INCO社によって開発された鋼種であり、低炭素18%Ni鋼に時効硬化元素としてCo、Mo、Ti、Al等を添加した時効硬化型の超強力鋼です。
時効硬化処理により非常に高い強度を得られる上に、靭性に富み、切欠強さが高いという特徴から、航空機、ロケット、ミサイルや人工衛星などの宇宙開発用機器にも使用されてる材料です。

当社では、マルエージング鋼の中でも大同特殊鋼のMAS-1を扱っております。
MAS-1は、時効硬化処理によって1960 MPa以上の強度を得られると共に、靭性も併せ持つため、時計部品、電算機部品、精密バネ、ダイヤフラム、その他の極めて高度の信頼性を要求される部品向けに使用されています。
Ni、Co、Moなどの高価な元素をトータル30%ほど含有しているため、鉄基合金の中では非常に高価な材料です。

MAS-1の主な特長は以下の通りです。

(1) 『1960 MPa以上』の引張強さ
比較的簡単な時効硬化処理のみで『1960 MPa以上』の引張強さが得られます。
冷間加工を施すと更に上昇し、例えば50%圧延材の時効硬化後の引張強さは『2110MPa以上』になります。

(2) 高強度で高靭性
強度が非常に高い上、靭性に富み、切欠強度や疲労強度も高い材料です。

(3) 熱処理でも急冷いらずで処理が簡単
時効硬化熱処理では、急冷等の必要がないため、処理が簡単で、熱処理による歪も極めて小さいです。

(4) 冷間加工による効果が僅か
MAS-1は固溶化状態でもマルテンサイト組織のため、冷間加工による硬化は僅かです。
(50%圧延でHV40前後の増加量)

(5) 比較的良い溶接性や切削性を有します。

主な用途

ダイヤフラム、バルブ、タイヤ金型用サイプブレード、時計部品、プリンタ部品、自動車用無段変速機、精密バネ、その他高度の信頼性を要求される部品

対応可能形状

製造可能範囲(コイル、板)

板厚

0.050~1.5mm

3.0~300mm

長さ

コイル もしくは L2000mm以下のシート

当社で製造するコイルやシート材の製造範囲です。

密度

8.02 g/cm³

比熱

335 J/(kg・K)

電気抵抗

60~70 μΩ・cm

ヤング率

182 GPa

熱膨張係数

10.1×10-6/K (20~480℃)

熱伝導率

19.7 W/(m・K) (25℃)

磁性

あり

MAS-1の焼鈍仕上げと強圧延仕上げの機械的性質は下表の通りです。
焼鈍仕上げでも290~340HV程度の硬さがあるため、靭性はあるものの一般軟質材のような加工はできません。

(1) 固溶化熱処理
標準的な固溶化熱処理条件は[820~870℃×数分~30分保持後、冷却]です。

(2) 時効硬化熱処理
MAS-1は時効硬化を人工的に行うことができる鋼種です。
標準的な時効硬化熱処理条件は[480℃×3時間]ですが、多少の温度・時間の組み合わせを変えることは可能です。
下図a)に冷間加工・時効処理後の機械的性質、図b)に時効硬化条件の引張強さへの影響を示します。

(3) 熱処理雰囲気
熱処理時の雰囲気ガスは、水素またはAXガスが適当です。

高合金鋼のため、一見ステンレス鋼のようにさびにくい材料と思われがちですが、不銹成分であるクロム(Cr)を含有していないため、一般鉄鋼に準じた防錆処置が必要です。

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