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【簡単解説】金属の低温脆性とシャルピー衝撃試験について

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【簡単解説】金属の低温脆性とシャルピー衝撃試験について

低温脆性とは? 低温脆性が原因の事故、シャルピー衝撃試験の方法、試験から得られる結果などについて解説します。



低温脆性とは?(Cold Brittleness)

低温脆性(ていおんぜいせい)は、金属が常温以下の低温環境下において伸び、絞り、衝撃値が急激に減少し、もろくなることをいいます。一般的に金属は、塑性変形を経てから破壊にいたる延性破壊をしますが、低温脆性がおこりもろくなった材料は、殆ど塑性変形をせずに破壊にいたる“脆性破壊”を起こします。

また、延性破壊と脆性破壊の境界となる温度を遷移温度といいます。
遷移温度を定義する方法は複数あり、温度-衝撃値試験での最大傾きの温度や脆性破面率が50%となる温度などが定義されます。
低温脆性は、ニッケル、アルミニウム、銅、オーステナイト系ステンレス鋼など面心立方格子の結晶構造をもつ金属では起こらず鉄やクロムといった体心立方格子で起こる現象です。

低温脆性が原因の事故

低温脆性の危険性について周知されるようになったのは1946年以降のことであり、
それ以前を振り返ると、当時の知識・技術不足から低温脆性が要因となって引き起こされた大事故が度々起こっていました。

以下に有名な2つの事故を示します。

タイタニック号沈没

映画にもなった有名な海難事故ですが、タイタニック号の沈没理由は氷山にぶつかったことだけではないと言われています。
氷山にぶつかった際に、低温脆性が起こっていた船体の外板と外板をつなぐ鋲が脆性破壊を起こし、外板が剥がれて海水が侵入、そして、船内の防水隔壁が上部甲板まで通っていなかったため船首から次々と海水が流れこみ、前半部の重さに耐えきれなくなり真っ二つに折れてしまったとされています。

当時の海水の温度は―2℃であり、技術が発達した現代ではこの温度で脆性破壊を起こすことはありませんが、タイタニックに使用されていた鉄板は、リンや硫黄といった不純物を多く含む質の悪いものであったことから遷移温度は27℃であったと事故後の調査でわかっています。


リバティ船沈没

第二次世界大戦中、アメリカは物資救援のための輸送船としてリバティー船を量産製造しました。
約2700隻が製造されましたが、損傷と事故が報告されたものは1031隻にもおよびそのうち200隻以上が沈むか、または使用不可の重大事故をおこしました。なかには、穏やかな海の上で係留中であったにもかかわらず突如真っ二つに折れ沈没してしまった船もあり、事故のほとんどは北洋や寒冷期の地域でおこっていました。

その後大規模な調査が行われ、溶接不良と低温脆性が原因であることが分かりました。 この出来事は、低温脆性の現象を認識させたとともに、
遷移温度の低い材料の研究開発や、現代にも通ずる破壊力学の体系化を進ませる重要な契機となりました。


シャルピー衝撃試験

低温下で急激に衝撃値が減少することがある金属ですが、温度と衝撃値の変化を調べる試験に、シャルピー衝撃試験というものがあります。
これは1901年にジョルジュ・シャルピーによってフランスで考案された試験であり、原子力発電所や船舶、航空機といったものに使われる材料の破壊靭性を評価する際に最もよく行われている試験です。


シャルピー衝撃試験の方法

シャルピー衝撃試験は、試験機の下にある台に「ノッチ」と呼ばれる切り欠きのある試験片をセットし、大きな振り下ろしたハンマーをぶつけることで試験片に衝撃をあてて、材料の靭性や脆性を評価する試験です。
ノッチには、Vノッチ(V字型のくぼみ)とUノッチ(U字型のくぼみ)の2種類があり、試験片にはいずれかをつける必要があります。
また、試験片はノッチがある反対面にハンマーの衝撃が加わるようにセットします。
金属材料のシャルピー衝撃試験方法は、JIS Z 2242:2023「金属材料のシャルピー衝撃試験方法」に規定されています。
シャルピー衝撃試験の図

シャルピー衝撃試験から得られる結果

シャルピー衝撃試験では、吸収エネルギー、シャルピー衝撃値、脆性破面率、横膨出量、遷移温度といった衝撃特性値を算出することができます。
吸収エネルギーとは破壊に要したエネルギーであり、打撃前後のハンマーの位置から読み取り以下の式で求めることができます。
吸収エネルギーが大きいほど材料は靭性が高く、小さいほど靭性が低いことを示しています。
また、シャルピー衝撃値は吸収エネルギーを試験片の断面積で除した値と定義されています。

シャルピー衝撃試験の図

E=WR(cosθβ-cosθα) -L
a=E/bh

E :吸収エネルギー(J)
a :シャルビー衝撃値(kg・cm/㎠)
W :ハンマーの重量(N)
R : ハンマーの回転軸中心から重心までの距離(m)
θβ:試験片破断後のハンマーの振り上がり角度(°)
θα:ハンマーの持ち上げ角度(°)
b:試験片の幅(cm)
h:試験片の厚み(cm)
L:ハンマーが運動中に失った摩擦によるエネルギー損失(J)

破壊された試験片の破面は、温度によって延性破面、脆性破面と様相が変化します。
破面に占める脆性破面の割合を、脆性破面率、破面面積から脆性破面率をひいたものを延性破面率とよび、脆性破面率が50%となる温度を遷移温度と定義する場合があります。(遷移温度を定義する方法は複数あります)
また、横膨出とは試験後の試験片と、原寸の試験片の衝撃側における幅の増加量をいいます。

試験により得られたデータから、下図のような、温度と吸収エネルギーの関係を示したエネルギー遷移曲線や、脆性破面率と温度との関係を示した破面遷移曲線を求めることができます。

エネルギー遷移曲線の例
破面遷移曲線の例

ちょこっとメモ

材料の衝撃値を測定する衝撃試験は、シャルピー衝撃試験以外にも以下のようなものが挙げられます。

  • ・アイゾット衝撃試験
  • ・引張衝撃試験
  • ・デュポン衝撃試験
  • ・落球(落錘)衝撃試験
  • ・ダートインパクト試験


まとめ

以上、低温脆性、シャルピー衝撃試験について解説いたしました。
当社では、材料の基礎研究としてシャルピー衝撃試験機も所有しております。
試験データを元に材料仕様のすり合わせが可能ですので、お困りごとや課題がありましたらお気軽にご相談ください。
金属材料は、今回説明した低温環境下における靭性の低下、破壊とは反対に、 高温下において一定の荷重をかけると時間の経過とともにひずみが大きくなり、時には破壊に至るクリープ現象とよばれる現象も発生します。

クリープ現象については、こちらで解説していますので併せてご確認ください。


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